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第5章 壊された日常 4/8

last update Last Updated: 2025-05-17 11:00:23

「柚希〈ゆずき〉さん、遅いですね」

 小さく息を吐き、晴美〈はるみ〉がそうつぶやいた。

「こんなに女性を待たせるなんて、もってのほかですよ、全く……男子たる者、約束の10分前には到着して待つぐらいでないと」

「ふふふっ」

 紅音〈あかね〉が小さく笑った。

「晴美さん。そのセリフって、この前見たドラマのセリフですよね」

「はい。と言いますか、あのドラマで言ってなくても、男子としての最低限のマナーですから」

「柚希さんはこの十日間、試験の為にずっと頑張ってこられたんです。学校に通っていない私には分からないことですが、それでも大変だったということは理解してます。

 それが今日、やっと終わったんです。緊張感から解放されたことですし、ほっとして、クラスの方々とお話でもされているんじゃないでしょうか」

「甘い、甘いですよお嬢様。いいですか、殿方への教育は最初が肝心なんです。最初からそのように甘やかしていたら、どんどん増長していきますよ。殿方の手綱をしっかり握る為にも、心を鬼にして厳しく接するべきです」

「でも、柚希さんには柚希さんの生活があるのですから、私の都合ばかりを押し付ける訳にはいかないと思います。

 いいじゃないですか。こうして柚希さんを待ってる間、柚希さんが好きなこの風景を見ていられると思えば」

「そのわりにはお嬢様、こうして私と話している間も、何度となく時計を見られてますよね。そんなに度々見られても、時間は進んでないかと思いますが」

「あ、いえ、これは……」

「むふふふっ。理解ある婦女子でいたいと思う気持ちと、早く会いたいという本音との間で葛藤されているお嬢様。そんなお嬢様を見れただけでも、まあ今回の柚希さんの遅刻は許せますが」

「もうっ、晴美さんったら……大体どうして今日、晴美さんがついてきてるんですか」

「そりゃあもう、いつの間にか柚希さんラブになってしまったお嬢様が、待ちに待った今日この日。この日のお嬢様を見ずして何のお嬢様フリーク

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